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 落ちていくのはいつだって簡単で。
さん」
「なんでしょう?」
「困ったことがあったらいつでも言ってくださいね」
「……ありがとうございます」
 暗い道は危ないから、気をつけて帰らないといけない。
「うおっ」
「起きた?」
「僕、また寝てたのか……」
「おはよう」
 月明かりに照らされた白い一本道。貝殻を模した寮と平たい岩の階段、巨大な海獣のあばら骨。太陽ほど光が届かない夜の海では、それだけがぼんやりと浮かび、あとはスマホのライトでもないとすぐに海藻や珊瑚にぶつかってしまう。
 海の魔女を象徴とした寮、オクタヴィネル。
 寮長であるアズールが経営しているモストロ・ラウンジと、道を挟んで隣に建つ寮、そこから外へ出られる鏡までに繋がるL字の道。その帰路を一足飛びに斜めに移動するほどとデュースは来慣れていた。
 オクタヴィネルでは、人魚や海の生き物以外あらゆる生物が外に出た時点で巨大な空気に包まれる。だから人間でも誰でも、海の中を呼吸に苦しむことなく移動できるようになっている。二人を覆っていた大きな泡は、起きたデュースが退いたことにより二つに分かれる。はデュースが完全に覚醒したことを確認すると前を向く。その顔は、よほどそちらの方が眠そうな目で、髪は無造作に浮かび上がっていて、セーターは伸びて毛玉だらけ。小さいながらも骨張った手と薄い身体つき。この少年がオンボロ寮と皆が呼ぶ廃屋に留まることになったのはほとんど成り行きだが、実際住んでみると彼ほどあの館の主に似合う者もいないだろう。
 一見するとなんにおいても反応の鈍そうな顔で、その実、頭はよく回っていて、食堂のシャンデリアを破壊して退学危機に陥った時、デュース達を置き去りに学園長に詰め寄る姿はとっさとは思えない口振りだったし、その後森のモンスターと出会したときの機転も早かった。
 デュースは時折、はわざとみすぼらしい格好をしているのではないかと思う。デュースが脱色していた髪を染め直し、言葉遣いや目付きを気にかけるように。目的は違うが、にも抑えたい何かがあるのではないか。上級生に絡まれて悪意を持って卵を割られた時、先に手が出たのはデュースだったけれど、前に足を踏み出すのはの方が早かった。
 そう、だから、──が「本当に」外見通りに大人しく見えたとき、
「なぁ」
「うん?」
「エースと、何かあったのか?」
 二週間前、がグリムを怒らせ、ついでにデュースや周囲も怒らせ、相棒がエースに入れ替わったあの日。
 デュースが食堂で二人を見かけた──より正確に言うならば、しばらく二人に気付かなかったとき、その影の薄さに驚いた。元々グリムという小さな怪獣がいなければ、トラブルともあまり縁のなさそうな人物ではあるが、それを差し引いても、顔馴染みの二人が、人混みの中で、他の人々と同じように溶け込んでいて、それが二人だと自然に見えた。
 きっと、その綻びに気付いているのはデュースだけではない。
「なんで?」
 前にいるの顔は分からない。
「上手く言えないけど、なんか……変だ」
「そう?」
 誤魔化すような物言いに、抱いた違和感は間違いではなかったと、内心安堵の息を吐く。
「何にもないよ」
「本当か?」
「ほんとう」
「……やっぱり何かあったんじゃないか」
「なんにもないって」
「何があったんだ」
「しつこいな、何もないって言ってるじゃん」
 苛立ちをあらわに振り返るに心配が増す。露骨な警戒は怯えと捉えるが、こんな獣が唸るような真似を普段ならするはずがない。
「駄目だ、やっぱりお前なんか変だ」
「だったら何?」
「僕が迷惑だ」
 棘のある声が鳴りを潜める。が警戒を残しながらも気まずそうな顔でデュースを窺う。今のは悪い言い方だった。良くない手段を取った自覚はあるが、それでも、こちらを気にかけてくれる友人が好ましかった。
「何があったんだ?」
「言いたくない」
「……わかった。じゃあ、せめて、元に戻れないのか?」
「……もとに」
 顔を上げたは、途方に暮れた目でデュースを見たあと黙ってしまった。これは想像していた以上に深刻だ。
 自らの振る舞いが招いている面も否めないが、は良くも悪くも絡まれやすい。ただでさえNRCの生徒はガラが悪い。弱みを知ればそこに付け入ろうとする輩もいるだろう。より多くの生徒に気取られる前に、早く解消してしまった方がいい。
「どうやったら、いいんだろ」
「うーん」
「……あ、ごめん。聞いてばっかで」
「あ、いや、その、勉強会とかはどうだ?」
「わざわざ開かなくても、今日デュースが寝てたところは教えるよ」
「そうじゃなくて!」
 デュースは生温い視線を送ってきたに弁明する。提案はありがたいけども、邪な気持ちで出した訳ではない。存外付き合いのいい友人はわざわざデュースが言い出さなくとも面倒を見てくれただろう。それに胡座をかいてはいけないし、全然、全く、これっぽっちも保険をかける気持ちがなかったかと言われると嘘になるが。
「勉強の名目で一緒に寮とか泊まったら、仲直り、できるかと思って……」
「おー」
 相槌を投げ打ったは、大分いつもの調子に戻ってきていたが、そのまましばらく黙り込んでしまった。デュースは緊張した面持ちで答えを待つ。
「そうだね。……してみよっか。勉強会」
「いいのか?」
「うん。乗らなかったら乗らなかったで、二人ですればいいし」
 今回だけじゃ無理かもしれないけど。は前置きを付け足す。そんなに自信がないのだろうか。そこまで決定的に仲違いしているようにも見えなかったし、入学当時ならともかく、ここまで付き合ってきたエースがそうはっきりと断絶を示す人間にもデュースはどうしても思えなかった。もっと信じても大丈夫だと思うのに。
「私も元に戻れるなら戻りたい」
 薄く笑うは叶わない夢でも願うかのように言う。
 次の週末、デュースとエースはオンボロ寮に泊まることになった。

 ああ、まただ。
 またあの時の違和感だ。
 照明の落とされた談話室で、とエースが話している。窓際のソファで話す二人の声は、暖炉前で丸まっているデュースまで届かない。夜だから、グリムとデュースは寝てると思っているから、起こさないよう声を潜めて話すのは自然なことだ。
 あの時だって、がグリムを怒らせて、結果デュース達とは別行動を取っていて、だから二人だけで食事を取ったのだって、なんらおかしなところはないはずなのに。心臓を指で撫でられているかのように落ち着かない。
 床に伝わる小さな振動がほとんどなくなった頃、デュースは静かに体を起こす。
 階段を上って、二人がどちらに進んだのか分からないが、ひとまず左に曲がる。北西の角部屋がとグリムの寝室だからだ。東側は窓から外の光が差し込むが、北と西は壁と扉に挟まれた内廊下だ。ところどろ取り付けられた電灯も、今は妖精の余炎が芒々としているだけで薄暗い。廊下の突き当たり、の部屋の前で二人が何か話している、のだと思う。エースの姿がにほとんど重なって、何をしているのかよく見えない。
「……?」
 廊下の反対側のデュースからは、奥にいるエースの顔が、前に立つの背に隠れて、様子がよく分からない。何かがおかしい。顔半分は身長差がある二人なのに?
「だってさ、デュース」
「デュ、ス……?」
、オレと仲直りするの嫌なんだって」
「っはなせ、馬鹿!」
 の意識が逸れた隙に、矮躯にエースがのしかかる。デュースは気付いていなかったけれど、足元から伸びる大きな影が、後ろの窓枠が作る影を覆い隠していた。こちらに近付いてくるデュースの方へが駆け出してしまわないように、エースはより体重をかける。それを押し返すも、じゃれつくようにまたのしかかるエースも、デュースにはやけに親密に見えた。
 これはもしかして。お互い距離があるように見えていたのも、が妙に警戒していたのも。もしかして、喧嘩中などではなく、その、逆の、
「お前ら、付き合っ……て、た、のか?」
「そうそう」
「っちが、絶対にちが、〜〜〜〜ッ!!」
「あんまり声出すとグリムまで起きるよ」
 そう注意する声ですら、嫌に潜めた声でボソボソと話し、耳裏にキスをする。いつもより遥かに近い距離感に、デュースは見てはいけないものを見ている気がして目を逸らす。
 しかし、あの約束を取り付けた時、は確か、「元に戻りたい」と言っていなかったか。疑念がよぎって視線を戻すと、エースの手がの胸まで下り、形を強調するように円を描く。
「おい」
 さすがに見咎めた。が本気で嫌がっている。
「まあ本当に付き合ってないんだけど」
「え、」
「前に聞きたがってたこと、教えてやるよ。オレね、こいつのこと犯したの」
「……は?」
 頭をバッドで思い切り殴られたかのように動けない。さっきまで逸らしていた目もエースの台詞が耳に入った途端、今度はそこに釘付けになる。
「嫌って言われても止めないで、無理矢理濡らして、気絶するまでずっと揺さぶってさ」
 エースの膝が、の足に割り込んで、細い腰が少し浮く。
「すげー嫌がるし、めちゃくちゃ抵抗するし、マジで泣いてるんだけど、段々ね、我慢できなくなって漏らす声が、すっげぇ、かわいいの」
 甘くとろけた瞳でエースが言う。惚けた声で気の狂った話をしている友人を止めなければいけないのに、デュースの体は動かない。嫌がっている友人を助けなければいけないのに。エースを殴ってでも怒らなきゃいけないのに。それができないならせめて、この場から逃げ出して、せめて他の誰かに助けを求めなければいけないのに。
 足がずっと床に貼り付いている。
「ね、デュースも興味ない?」
「な、に」
 エースの手が更に下まで降りて、膝に乗せた、股の線をなぞるように、ズボンの上から縁に触れる。が裏打ちを繰り出そうとしたので、瞬時に引いて最初の負ぶさる形に戻ったが。
「はは、マジでおっかねぇな」
 腹に巻き付いた指でさえ、一本を狙って掴むので、エースは渋々両手を握る。
「はい、今ならデュースくん触り放題だよ」
「なに言ってンだ、この馬鹿エースッ!!」
「今なら手も塞がってるし、足もちょっと浮いてるし」
「や、っ──」
「ほら、こっち来て」
 あんなに動かなかった足が、エースの一声で、いとも簡単に床から剥がれる。二人の前まで近付くと、手足を塞がれたが怯えた目でデュースを見上げた。

「デュー、ス」
 顔を合わせたが悲痛な目をして、それでも、何の言葉もその口から出てこない。拒絶するのが正しいのか、助けを求めるのが正しいのか、もう正解が分からないのだろう。当たり前だ。パニックに陥った時、そんな簡単に的確な答えなど引き出せない。こんなに怯えていたのに。気付かなかった。気付けなかった。こんなに恐がっていたのに、震えていたのに、自分が、デュースが、仲直りできないか、元に戻れないか、差し戻すような真似をして。
 の両肩に手を置く。こんな小さな肩に一人で抱えさせてしまった。
、ごめんな」
「デュ、ス、たすけ……」
 最後まで言い切ろうとしていた唇を自分のそれで塞ぐ。一瞬表情をなくしたの顔がすぐに歪んで、暴れて大声をあげようとした口を今度は手で塞いだ。
「じゃ、部屋行こっか」
「ああ」
 違和感の正体が分かった。
 疎外感だ。

 ドアに背をつけたエースに押し付けるようにしてに口付ける。上手いキスのやり方は知らなくとも、ずっと口を塞いで、脳に運ばれる酸素を薄くしてやれば、自然と体の動きは鈍くなる。
「よし」
「よしじゃなくて」
 頭をずらして必死に息をするを見て頷くデュースに、肩越しのエースが呆れた視線を送る。半ば誘いに乗るかどうかも賭けだったような相手を、誰がここまで積極的になると思うだろう。本人の中で何か吹っ切れたのかもしれないが、切り替えの早さにエースの方がついていけない。
「エース、教えてくれ。次は何をすればいい?」
「えぇ、……とりあえずベッド行く?」
 壁側のドアでは窓からの光も遠く、デュース自身も影になっての様子が分かりにくい。そう思って提案したが、デュースは「このままでいい」と断った。
「一回全部削いだ方がいいだろ」
「そりゃそうだけどさぁー……、じゃあ、べたべた触って」
「触る……」
「はい、もう一回顎持って」
 両手はの手で塞がっているため、エースは口だけで指示を出す。デュースはさっきまでの添える形でなく、手のひら全体を顎から首にかけて押し当てるように触れる。幾分いやらしさには欠けるがいいことにした。
「そのまま、首とか耳とか、今からやるんだって、思い知らせるために。ねー、
 最初のうちは大きな面積で触れるようにしていたデュースだが、エースが唇や歯で落とす刺激にが身を固くする様子を見て、徐々に指先や爪を使っていく。首筋や耳の穴に、線をなぞるように撫でていくと、首を逸らして逃げようとする。睨むがちっとも恐くなくて、もう一度キスをした。
「腹触って」
 いつまでも顔周りばかり触れていたデュースに、焦れたエースが次を促す。スウェットの裾から手を差し入れて、恐る恐る脇腹に触れると、後ろにほとんど引けないがそれでも大きく身動ぎする。首や顎から熱を奪って、手のひらとの温度差はあまりないように思っていたが、胴体は更に熱い。蒸れた腹を線に沿って少しずつ上にあげていくと中指の腹に窪みが当たる。
「お前胸避けてるだろ」
 エースの指摘にデュースが固まる。
「ここまで来てなに照れてんの」
 からかう声に釣られて、窪みに置いていた指をゆっくりと横にずらす。あばらのわずかな段差の後に続く薄い脂肪。指を進めていくと先に触れる固いもの。
「乳首当たるだろ。もう固くなってるかな?」
 寒いもんね。エースは全く思ってもなさそうなことを言う。デュースの手が熱くて、かざされた手と胸の間がじんわりと汗ばむ。手のひらが肌の上を滑る。肉などいくらもないのにかき集めては揉む真似事をするそれにの耳が熱くなる。
「痛くないか?」
 時々、乳首が根元ごと動いて、取れやしないかと心配になる。デュースは手のひら全体を押し当てる形から、指先で触れる形に切り替える。
、痛くない?」
 もう一度聞いてもから返事はない。摘む指にかける圧を少し上げる。突然強くなった力にが激しく首を振る。
「言わなきゃデュース分かんないって」
 追及するようにデュースが耳朶を噛む。

「強いの、ゃだ」
「耳? 胸?」
「……っむ、ね」
「痛くない?」
「ん、」
 が声を出すことに味を占めたデュースは、時折わざと強弱をつけて半ば強制的に口を開かせていく。泣き声混じりの荒い呼吸がエースの耳にも絶え間なく入ってくる。エースは繋いでいた手を解いて、を自分の膝に乗せるよう持ち上げる。足が完全に浮いたが暴れるが、デュースが間を詰めて動かなくする。エースがスウェットをめくっての胸を晒す。
「デュース、こっち舐めて」
 平らな胸で聳り立った小さな乳首。デュースから見て左、の右の、まだ触れていなかった方の胸。
 デュースはしばしためらったあと、顔を近付けて突起を口に含む。触れた舌先に塩の味が広がる。根元から乳頭にかけて輪郭をなぞるように舐め、唾液を押し当て、何度か吸ったあと唇を離す。
「ありがとー」
 ほどよく湿ったそこに、エースの指が触れる。
「デュース上手だねぇ」
 滑るせいで上手く摘まれてもいないのに、は身を固くして自由になった手でデュースに縋る。スウェット越しでも腕に爪が食い込んでいるのが分かる。デュースはの背中に腕を回し、左の乳首も口に含む。背中を押して腰を反らせ、胸を突き出させて、より鋭利な角度で舌が当たる。エースとデュースに挟まれて、両方の胸を休む間もなく弄られる。舌で、指で、爪で、好き勝手に翻弄されて、首を振っても、足で蹴っても、肩を押してもびくともしない。
「もう引っ掻かなくていいのか?」
 急に目を合わせてきたデュースに挑発されて、指先に力を込めたタイミングで、背中を固定していた腕が緩む。支えを失ったはバランスを崩し、デュースに寄りかかってしまう。自力で、まともに立つことも敵わない。
「これならいい?」
「ああ」

 ベッドに上がって、エースが後ろから下げたズボンを、前にいたデュースが下まで降ろす。足首が抜けたと同時にに顔を蹴られた。頭上からエースの潜め笑いがする。痛めた鼻をさすりながら掴んだ足の先を見ていくと、付け根にあるはずの膨らみがない。上着の裾をめくってみるが、やはりなかった。
、え、お」
「うわ、やっぱり気付いてなかった」
「ついてない……」
 の足を下に戻して、デュースは下腹部に手を伸ばす。ちくちくと当たる陰毛の下、指に何も当たる感触がないのが不思議で、変な感じがする。距離感を誤っている気さえする。違和感を飲み込ませていると、視界の端での足が引いているのが見えたので、下手に動かれる前に捕まえる。まだ暴れていない左足も念のため膝で押さえた。スウェットが落ちて陰部を隠すが、手探りで先程と同じ形を辿っていく。二つの膨らみの間に爪先が少しだけ沈んで、水っぽい感触に当たった。
「……こうなってるのか」
「どうなってんの?」
「濡れてる」
「へぇ、……気持ちよかったんだ、よかったねぇ
 耳元で吹き込むエースには激しく首を振る。全身で拒絶したいのに、手はエースに繋がれて、足も両方押さえられてしまった。
「デュース、上、固いとこない?」
「上?」
「隠れてるかもだから、ちょっと指入れたまんま上あげて」
 エースの言われた通り進めていくと、体液でぬかるんだ指になにか突起状の固いものが当たる。
「っ」
「そこが一番弱い」
 突起に触れた途端、掴んだ足首も手の中で震えたのが分かった。デュースは下から掬った体液を上の突起に塗りつける。突起は注意深く触ると皮に包まれていて、そういうところは男女あまり変わりないのだなと思う。
「まあ、挿れる場所はさっきの濡れてるとこだから、そこ広げないとあんま意味ないんだけど」
 エースはそう言うと、折り曲げていた足を左右それぞれの足の間に割り込んで、自らの足と一緒に広げる角度を大きくさせる。
「ぇ、ぁ、ゃ」
「入れてみ?」
 平らなベッドの上で、エースの足だけでは抜けてしまいそうなそれも、デュースの手が固定することで、大きく開かれたままになってしまった。隠れた場所がどうなっているのか、こうして見るとみるとよく分かる。先程まで弄られ続けた陰核は色濃く膨らんでいる。潤った膣口に、デュースが恐る恐る指を入れていく。
「──ッ」
「ごめんっ、痛かったか?」
「最初はすげぇ狭いから、ゆっくりな」
「入るのか、これ……」
「だからちょっとずつやんの」
「ゃ、」
「逃げちゃだーめ」
 後ろに引いたの腰をエースが自分ごと前に戻す。デュースは膣内にもう一度指先を埋めて、身体の線に沿って今度は上向きに。ゆっくりと進めていくと、存外素直に根元まで飲み込んだ。
「中にいることに慣らせて、褒めて可愛がって緩ませて、そしたらまた増やして覚えさせるんだよ。形も、重さも」
 エースの言葉に柔らかく指を挟んでいた中がひくつく。を見ると、暗闇の中でも顔を染めあげているのがよく分かった。デュースが陰唇の上にある突起に触れる。中がまた震えた。
「他の気持ちいいとこ触りながら、少しずつ指入れて拡げんの」
「ぁ、」
 噤もうとした口にエースの顔が落ちてきて、声は出ないものの無理矢理中をこじ開けられる。デュースはエースの言われたことを忠実に守りながら、他に刺激を与えつつ、中を少しずつ進めて、指の動く範囲を広げていく。着実に増えていく痺れに、身体は逃げたいのに息を吸われて、意識の方が追いつかない。上顎を撫でられて、毛を逆立てるような感覚が背筋に伝う。視界がぼやける遠くの方で、嫌な音がずっとしている。
「いでででででで」
「長い」
「お前マジで引っぺがす奴がある!? 髪抜けるんだけど!?」
 無言で拗ねるデュースに、意図を図り損ねたエースは悪びれることなく舌を出す。
「どうせ声出さねーもん」
「嘘吐け、さっき出してただろ」
「そりゃお前が出させてたからだろ。普段なら出さない」
「……これでもか?」
 デュースはの表情を見て、エースに戸惑いの視線を送る。涙が張って潤んだ目、汗が滲む熱い皮膚。浅い呼吸を繰り返して、力の抜けた体は、抵抗するどころか自立する力すら残っておらず、背中をくたりとエースに預けている。状況が違えば、重い風邪を心配するほどだ。
、デュースが声聞かせてだって」
 エースが指の背での頬を撫でながら声をかける。ずっと遠くを見ていていたの焦点が段々とデュース達に合ってきて、涙越しでも分かるほど瞳孔が細まって、怒気を孕んだ目で睨まれて、そっぽを向かれた。
「……」
「ほらね」
 エースは呆気に取られたデュースを気にする風もなく、の下腹部に指を入れる。解けた中は柔らかく、すんなりとエースの指を飲み込んでいく。
「すご、上も下もとろとろ」
 が口を引き結んで、自由になった手でも覆う。エースが浅瀬を行き来して、デュースが奥をノックする。二人から刺激を与えられても、は頑なに声を出さない。息には唾が混ざって苦しそうで、水音は確実に増していっているのに。
「あー……、駄目だこりゃ。」
 エースは入れていた指を中から抜いて、を抱えたまま背もたれまで下がる。
「デュース」
「あぁ、そうか」
「舐めて」
 デュースは上半身を屈めて、の足の間に舌を入れる。
「やだっ、やだっ!!」
「あはっ、自分から出した」
「やめて! やめっ……あっ、ふ、──ッ!!」
「あらら、また閉じちゃった。でも、もうそんな強く閉めれないでしょ」
「やっ、うそ、やめてやめて……!! ぃゃ……」
 エースの言う通り、デュースが割れ目を開けて膣の中にまで舌を入れられたことが信じられなくて、はまたすぐ口を開けた。デュースは入れた舌と共に指も差し込んで、中を動かす。
「やだッ、やだ、やだぁ!!」
 こぼれる体液を舌で拾って、上の陰核に塗りつける。皮に隠れている突起を吸って、出てきたら突いて遊ぶ。悲鳴に反して、中に差し込んで動かすだけ指先に包まれる粘液が増して、締めつけとその後の緩みが大きくなる。
「デュースッ、おねが、ぁ、ぅ……」
 拒絶をしていたの声が、段々と弱くなって、か細い泣き声に変わっていく。普段の低くて静かな声が、甘みを帯びた高さになるのが心地いい。離したいだろうに髪を柔らかく掴むだけの手も、可愛らしくて仕方ない。
「ゃ、ぁ……」
、気持ちいいか?」
「だ、め、そこ、ぁ」
「デュースばっかり構わないでよ」
「んっ、ん──!!」
 曲げた背中にエースが被さって、デュースの舌が抜けた代わりに、エースの人差し指が入ってくる。二本の指に好きずきに動かれて、中を埋める体積が増えていく。
「たまんなくなってきたねー、かぁわいいー」
「あッ、したっ、したやぁ……!」
「だって、お前だけ気持ちよくなって終わりー、じゃないし」
 臀部に勃起した陰茎を押し付けて、腹に回していた手で臍の下に触れる。
「あーあ、今からこの中いっぱい入れられちゃうんだろうな」
「や、や……」
「今日はデュースもいるし、大変」
 身体を起こしたデュースがに頬擦りしながら名前を呼ぶ。二人の距離が近付いて、空気が冷たいのにずっと熱い。腕を押してもびくともしない。エースが真ん中を叩くように、デュースが奥を引っ掻くように刺激を送る。
「デュースのどんなのだと思う? っはは、想像した? えっち」
「もうゃ、やぁ、あッ……」
「ね、この後どっちがいい?」
「ぃ、」
 既に二本入っている膣の中、新たにエースの中指が入り込んでくる。中が重くて動けない。無理矢理引き伸ばされた皮膚に痛みが走る。
「ゃ、ふゃすの、や」
「ゆっくり動いてあげるから。ほら、オレ? それともデュース?」
「んぅぅ、う」
 痛いのに、痛いのに、それでも蠢く中が恐い。動きが緩やかになって、柔らかな刺激が次の痒みを引き寄せて、いっそ自分から擦りつけてしまいそうだ。
「や、ぁ、だぁ、やだぁ」
「言わないの? 二人一緒にする?」
「できな、できなぃ……」
「エース、僕が後でいい」
「えー、聞きたくない? 理由とか」
「やりすぎだ」
「ちぇ、」
 デュースはそれ以上譲る気はないようで、エースは諦めて指を抜く。デュースの腕に縋りつくは喉をしゃくりあげながら泣いてる。
 下を脱いで、ポケットに入れていたゴムをつける。ひっくり返してベッドに押し倒した少女は、呼吸も少し落ち着いて、小さく息をしながら、惚けた目でエースを見上げている。
「デュースくんが優しくてよかったねー。ちゃん」
「あ、ぇ? あ、……」
 遅れて挿入されていることに気付いたが、せめて口を塞ごうと腕に意識を送るも、デュースに押さえられていて動かない。
「息、苦しくないか?」
 この場にあまりにもそぐわない優しい目で見下ろすデュースに、たじろいだが目をつむる。目尻を緩めたデュースは、の引き結ばれた唇を何度かなぞって、少し力を入れて中に入り込んでくる。
「んむ、む、むっ、や……!!」
 口に広がる塩の味。その濃い味に、入れられた指が先程までを掻き回して、その後デュースが舐め取っていたことを思い出す。首を振って指を出そうとしても、単に嫌がったと受け取ったデュースは舌を挟んで遊ぶだけだ。エースの方が先に気付いて、小さな収縮が続くなか、腰を掴んで強引に押し進める。
、目ぇー見て」
「……ッ!!」
「かーわいいね、お前。ほら、もっと締めていーよ」
「あぁっ!? やぁ、やぁッ!!」
 デュースは内心首を傾げたが、揺さぶられて恥ずかしそうに声を漏らし続けるに満足する。解かれた右手は自由なのに、デュースの腕に縋るばかりで、口の中の指を取り外すにも至らない。
 自分の膝元で喘ぐ少女を見下ろしながら、ふと疑問に思っていたことを口にする。
「なんでゴム持ってるんだ?」
「持ってなきゃ駄目だろ、事故ったらどーすんの?」
 エースはまともに答える気がないようで、デュースは半眼で睨めつける。
「皆で退学になんてなったら、こいつなんて学歴ゼロだし。なー?」
「なんでまで……、あ、そうか、女子か」
「んぁ、やッ」
「正直に話してみたらどうだ?」
「この経緯の後に男子校に置けると思う?」
「んんーっ!!」
 亀頭が奥まで届いて、合わさった身体との間で陰核が潰れる。ぐりぐりと押し込めるように、何度も角度を変えてエースが打ち付ける。細い腰から手を離して左の胸を触る。なだらかなこれだって、もう少し肉でもつけば、今と同じ形を保つとは限らない。男の陰茎を中に嵌めて、腰をくねるくらいしか動けず泣く少女は、紛れもなく自分達とは違う形をしている。
「学園長が保護者になってんだから、追い出されはしないだろうけど、それだって十九までだし」
「でも……」
「というか、そういう心配すんなら、こういうことっ、すんな、っての!!」
「んんッ!!」
「いっ、」
 エースが思い切り打ち付けた勢いで、の歯がデュースの指に食い込む。皮膚を破ってしまった感触が歯牙に伝わり、舌に鉄の味が広がる。
 は慌てて歯を引き抜いて、傷口を舌で包み直す。唾液にはまだ血の味が混ざる。こちらを見上げ様子を窺う姿が、主人に叱られる前の犬を彷彿とさせた。が悪い訳でもないのに。デュースは左手を解いて安心させるように頭を撫でる。
「大丈夫、そんなに痛くないからな」
 デュースの言葉に強張りはなくなるが、は依然ちろちろと指を舐める。デュースも頭や頬を撫で、指が下に降りてきて顎裏をくすぐる。困ったが身動ぎ、すっかり味のしなくなった指を舌で押し出そうとしたところで、
「ひゃう!?」
 エースが律動を再開する。
「エース」
「長い! 心配しすぎ!!」
「ぁ、あ、あっ……やッ」
「お前は僕に謝れ」
「オレだってデュースに邪魔された〜」
「やっ、動いちゃ、やぁ」
「えー、入れっぱなしでいいの?」
「ちが、ちがぅ、んっあぁ!」
 エースを止めようとして伸ばした手も、単に指を絡まれて終わる。絡んだ指先が手の甲を摩るように撫でてくる。違う、違う、違うのに。目を開いて上を向くとデュースが見つめていて熱が上がる。は中を締めつけ、また目を閉じる。その一連が、エースには脳を溶かすほど可愛い。
「こっち見て」
 繋いでいた手を引いて上体を起こし、座りが悪そうに視線を彷徨わせるを見る。
「デュースの指、おいしかった?」
 顎に伝う涎を拭いながら声をかけると、熱にうなされた顔が、眉根を寄せて首を逸らして目を閉じる。閉じた瞼の縁から、涙の粒が落ちていく。
 中が一番熱いけれど、汗ばんだの肌は、どこに触れても体温が高くて心地がいい。寒い部屋の中でずっと抱いていたいほど。ゴム越しにも分かるぬかるみと、絡めて逃げる舌が震えるのに連なって、下の方まで繋がって締めつけていく。
 びくびくと。ずっと止まずに。
「んー?」
「は、……ゃ、ぁ」
「……お前ほんとに分かりやすいね」
「どうしたんだ?」
「なんか、すごいいいみたい」
「ゃ……、はな、して、離し」
 腕を伸ばし、少しでも距離を取ろうとするの肩を引き寄せて自分に戻す。エースの動きはさほど変わらないのに、嚥下を続けるように中が動き続けている。腰も自分に密着させると、陰茎を搾る動きがきゅうきゅうとキツさを増す。
「やだ、ゃ」
「いーじゃん気持ちいいんなら」
「止まら、な、とまらない」
「はいはい、気持ちいいままいっちゃおうね」
「や、や」
 耳を優しく撫でながら、エースが絶頂を促す。背中を叩く手つきは赤子をあやすようなものなのに、それと一緒に腰を揺すられると、恐いくらいに収縮が止まらない。ほんの少しの嘔吐きと共に迫り上がってくる快楽が神経を焼きつける。嫌だ、恐い、止まってほしい。止まってほしい。
 これでが終わったって、エースにとっては終わりじゃないのに。
「えーすっ」
 握る手がなかったので、首に腕を回してしがみつく。目を合わせる必要がなくなって、期待値は下がるが、抵抗感も薄まってよかったかもしれない。は一瞬湧き上がった羞恥を塗り潰して、蓋を外して声を出す。
「おねが、いっ、しょ、いっしょっ! んんん────ッ!!」
 ゴム越しに流れ続ける精液に、受け止める少女が途切れ途切れの喘ぎを漏らす。エースはの額を肩に押し付けたまま、放心して動かない。部屋の灯りが点いていれば、耳まで赤く染まっているのがよく分かったことだろう。
「ずっっっ、るくね!?」
「よかったじゃないか」
「クッ──ソ消化不良!!」
「駄目だ、交代だ」
 不満を漏らすエースからを取り上げて、デュースは自分の上に跨るようにさせる。
「ごめんな、疲れてるだろうけど」
「……ゃだ、ゃ……」
「なるべく痛くないようにするから」
「デュース、やだっ、やめて……!!」
 聳り立つ陰茎に落とそうとする手を必死に掴むとデュースが止まる。動きを止めたデュースに、の目が期待したものに変わる。目を合わせたデュースは少し寂しさを滲ませた顔で。
「エースとは、友達じゃないのか?」
「……とも、だち」
 突きつけられた質問に、身体が芯から冷えていく。
 エースとは恋人ではない。この行為は同意の下ではない。だからといって、別のカテゴリに入れ直すことも、まだできなかった。まだ、友達だ。友達のつもりだ。友達でいたい。
 分かっている。これはデュースの屁理屈だ。きっとデュースだって、今は、この状況下で正気を失っている。いや、だからこそなのか。デュースはを責めている。
 助けを求めなかったことも。エースにさせたことを、デュースには許そうとしないことも。
「少しずつでいいからな」
「ぁ……、」
 の腰を掴むデュースの手は、無理矢理下に降ろそうとするものではないが、が自ら落ちてくるのを待っている。膣口にゴムの感触と体液が触れ合う。はデュースの肩に手をついて、少しでも下に落ちないようあらがうが、デュースが膝裏に手を差し込んで自分の方に引いただけで、呆気なく亀頭を飲み込んでいく。
「やだ、入れちゃやだぁ」
「いい子、いい子。ちょっとずつな」
「んッ、んゔぅう……!」︎
「性格わるー」
「お前に言われたくない」
「ぁっ、あぁっ、やぁ」
 外に出そうと身体を浮かせても、それが中で擦れる刺激となって、力が抜けて、悪循環にも飲み込んでいく。
「やだ、デュースやめて、やめてッ」

 デュースが背中から仙骨の線をなぞり、溝を引っ掻く。デュースの首に腕を絡めて踏み留まろうとするの耳に、デュースは声を吹き込んで。
「やっ、────ッ!!」
 わずかに残っていた隙間を埋めた。
「あ、あ……」
「偉いな、全部入ったな」
 デュースはの頭を撫でていた手を下ろし、腹の上に手を乗せる。
「中、小さいな」
 かわいい、こめかみにキスをされ、言葉に合わせて、中が陰茎を締めつける。が諦め悪くまだ腰を浮かそうとするものだから、デュースは追いかけるように距離を詰める。
「あっ、や、や、ぁ」
 逃げるのをやめてもそのまま律動を繰り返して、奥の震えと小さく陰茎を搾る感触を何度も味わう。ぽろぽろこぼれるあえかな声が、デュースの耳をくすぐる。
「やめて、やめてぇ」
、今のとこ好き?」
「あっ、あ、」
「指のときも締めてたもんなぁ」
「やぁッ!?」
 デュースの摩擦と、後ろから手を出してきたエースに胸を揉まれて、言いようのない感覚が迫り上がる。デュースは急な締めつけに息を詰めたあと、目を尖らせてエースを睨む。
 の身体を引き、肩に顎を乗せるエースはどこ吹く風だ。
「ッおい、エース!!」
「うるさーい、デュース早くいっちゃえー」
「やだっ、やめてやっ……! いっしょ、やあぁ……ッ」
「……僕よりの方が不味くないか?」
「そこはほら、頑張って。だって早くイッてほしいよなー?」
「また返事のしにくいことを」
 デュースが擦るたび、先が奥に当たるたび、ピリピリと中が痺れる。声だって堰き止めたいのに、揺さぶられると上手く蓋ができない。身体が思うように動かせなくて、相手の意のままに反応を引き出されて、完全に二人のおもちゃだ。
「でゅ、ーす」
「ん?」
 がふらふらとデュースの方へ手を伸ばす。涙をためた目に、後ろからエースに邪魔をされて背中を丸めて、それでも抜け出すように。何度も、何度も。
「助け、ひぃやぁっ、あぁ!!」
 下腹部に血が溜まって、全身が熱くてたまらない。毛穴から汗が噴き出る。心臓の鼓動が早い。ドクドクと血液が流れているのを体内ではっきりと感じる。デュースは唾の混じった空気を飲み込んで、荒れた呼吸を整える。歯を食い縛って堪えなければ、一気に出してしまいそうだった。
「やぁああ!!」
「──ッ!!」
「いいぞ、やっちゃえやっちゃえ〜。でもデュースにだけ言うのムカつく」
「ごめんなさっ、やだ、あぅ、ごめ、なさぃ」
 エースがの陰核を摘むことで、中の締めつけがよりキツくなる。デュース自身も大きくしてしまったせいで、ゴム越しでも、さっきより鮮明に快楽を拾ってしまう。
 ついぞ届かなかったの手を、こちらから引き上げて奥を突く。激しく繰り返す律動に、の口からそれまで出なかった奇妙な言葉が混ざりだす。
「やめてぇ、……ッぁ、きもちい、きもちぃよぉ」
?」
「やぁ、きもちい、いい、ぃの、やだぁ」
 やめて、嫌、気持ちいいを繰り返している。内側はしがみついて離さないのに、外は掴まれた手や腰が距離を取ろうと引きがちで、首も嫌々と横に振り続けている。
「やっ、お願い、ど、して? や、んむっ、……」
 の口に指を入れるエースの機嫌がいい。
「……エース、何したんだ?」
「かわいいでしょ」
「無理矢理言わせて楽しいか」
「人のこと言えんの? 結局助けてもない癖に」
 それを言われてデュースは押し黙る。
 人の顔色を窺って、デュースの望む言葉を出した。賢い友人が早く終わるよう、必死で考えた結果だ。言いたくないことを言わせてしまった。ただの防御反応。
「うぁっ、おなか、押すの、やぁッ」
、お願い聞いてくれるか? そしたらやめるから」
「……ほんと?」
 動きを緩めて声をかけると、泣きじゃくった顔があどけない。下の痴態とは全く似合わない。
 気管に空気が重く溜まる。
 既にしてしまっているのだから今更、と開き直っていい訳でもなくて。
 でも、だけど、この優しくてか弱い少女は自分よりデュースを気にかけてくれるから。
「名前教えて?」
「……ぇ?」
 言えば願いを叶えてくれるから。
「下の、名前。ファーストネーム」
『だってこれ、クローバー先輩だけの依頼だろ』
 彼女自身が言っていたことだ。嫌いだから、呼んでほしくないから。だからトレイ以外、蓋をして伝えられなかった。今までずっと呼べなかった名前。ずっと、ずっとずっと、デュースはそれを知りたかった。
「ほら、おしえて? そしたら、止まるから」
「やっ、あっ、あっ」
「言えない? じゃあずっとこのままだな」
「あぁああっ、やぁ! でゅーすやあぁッ、!!」
 動きが再開して、デュースのペースで突かれ始めて、激しい快楽に感覚が追いつけない。涙を散らしながら首を振る少女に、デュースは愛着と憐憫が湧くが、止めるつもりは端からない。奥を突くにつれ、拒絶を示していた動きが段々と弱まり、中がデュースを受け入れる。
「すっげえ気持ちいい。ずっと続いてるな、かわいい」
「あ、やだ、やだ、やっあうッ……、とまっ、とまってえぇ!!」
 覚えさせられた苦しさが快楽に塗り替えられていく。気持ちいい、嫌だ、やりたくない、こんなことしたくない、気持ちいい。なんでこんなことになったんだろう。何も考えずに身を委ねればこの苦しみから解放されるのか。舌が耳の中へと下りてきて、粘着質な音がより鮮明に聞こえる。下腹部への摩擦もやまずに背が丸まってしまい、崩れた姿勢が一向に直せない。不安だ、孤独だ、縋る先がない。暗闇をたぐり寄せるようにデュースの服を掴んで、首に腕を回して、結ぶ力を強くする。
 ずっと辱められて、それをずっと褒められて、止めどなく与えられる快楽に頭がおかしくなりそうだった。
「も、もぅ、ゆるして! ゆるしてくださぃ! !! やぁああああ!!」
?」
 こくこくと、できる範囲の全力で首肯する。
 それすらもう、身体がついていってるのか分からない。
 。デュースは聞き慣れない音の響きを、頭と口の中で転がして、そのまま舌に乗せて。

 吐息と一緒に外に出す。
「ぁ、」
 呼ばれた声に、名前に。
 首に回していた腕を解いて、肩を押そうとするの手を取り、デュースは自分の方に引き寄せて中を貪る。もデュースの体液を搾り取ろうとせんばかりに、何度も収縮を繰り返す。
、気持ちい?」
「や、だっ、ゃっ!! さわ、ぁ、あぁっ、さわんないでえっ!!」
「わかるだろ、自分でも食いついてんの」

「やだ! やだ! 呼ぶのだめぇ!!」
「名前呼ばれんの好きなんだ。かーわいいじゃん、ちゃん」
「いぁ、やあ!! すれるのやだぁ!!」
「かわいい、
 ひたりと貼りつく汗ばんだ肌。重なった唇の柔らかさと近くなる水音。脳を直接くすぐられるようにかき混ぜられて、臍を引っ掻くこそばゆさすら腹が重い。締めつける中を上から更に押さえられて、自分より固い指先が驚くほど柔い動きで胸先を弄る。
 下が擦れて、腹を押されて中に入っているものを自覚させられて。背中にも他人の熱があって。逃げたい、逃げたいのに、指を絡めて繋がれて、柔らかい唇で塞がれて、身体が親から餌をねだる雛のように動きを止めない。
「ん、もっと、もっと、して、いいから」
「ぁ……ぃや、いや、きちゃ、ぅ、きちゃ……」
、な、一緒にイこうな」
「あ、や、や、や、ゃっ」
「すげぇかわいい顔見せて」
「やだ! でゅーす、やだ!! やだっ、やだ、えー……っ!!」
「イッちゃえ」
 
ー? おーい、さーん」
「ぁ、ぁ、ぁ……」
「こりゃちょっと飛んでるな。デュース、抜いていい?」
「ん、あぁ」
 気をやったの腕をゆっくりと取り外すエースに倣って、デュースも慎重に腰を掴み上げる。射精が終わった後も中がずっと痙攣している気がして、少し動かすだけでも陰茎を締めつけてくる。ゴムに纏った体液が、すべて引き抜いた後も糸を引いているのも心臓に悪い。ひくひくと痙攣を繰り返す穴は完全には閉じきらず、指の一、二本は簡単に入りそうだった。
「うわー、うまそ〜」
 エースも言葉ではそういうものの、これ以上彼女に無体を働く様子はない。ベッドから下りて窓の方へ向かうと、鍵を開ける。頬に当たる風が冷たい。冬の冷気に晒されて、さっきまでの異質な空気があっという間に薄れていった。
「風呂行こーぜ、起きたらグリムに何言われるか分かんねーし」
 二人はズボンを履き直し、デュースが、エースがの服とシーツを持って脱衣所に向かう。
 シャワーコックを捻って、慣れた動作でにぬるま湯をかけていくエースを見て、デュースは改めて彼らが初めてではないと実感した。エースはそのまま手際よく身体を洗い、自らも洗い、外に出て、用意していた薬をデュースに渡す。
「ほんと、二人だと楽だわ」
 行為中も言っていた台詞をエースがもう一度言う。確かに気絶したを運んだり、介抱するのは、二人の方が負担も分担もできていいだろうけど。同じニュアンスで言っていいものなのだろうか。
 薬を塗るため膣に指を入れると、わずかながらも中がまだ反応して柔く締める。生理的なものだと頭では理解していても、先程までの痴態と脳が勝手に繋げてしまって、あまりにも毒で目を逸らした。
「何でこんなことするんだ?」
「お前は? なんで?」
「僕は……」
 二人が羨ましかったから。
 なんて言い方は完全に他人のせいにしていて、口にするのが憚られた。結局相応しい答えが見つからず黙ってしまう。
「そんな真剣に考えんなよ、嫌がらせだよ。嫌がらせ」
「怪我までさせてやることか?」
「んー……、」
 エースは膝に置いたの湿った髪をタオル越しに撫でる。ボサボサで、でも触ると意外と柔らかい。落ち着かせようと思えば、実は簡単にまとまった細い髪。こんなことになるまで知らなかった。
「そりゃもちろん、ないならない方がいいけど……、そんなんじゃこいつ折れないだろ」
 その言葉を聞いて、デュースはふと、なんとなく、頭に浮かんだことをそのまま言った。いつからだろう、あまりにも普段と同じように過ごしていたから気付けなかった。
「エース」
「んー?」
「お前、怒ってるか?」
 エースが笑う。存外子供っぽい、笑顔を作ろうとして作れなかった、変な顔。思わず自分の予測が外れたかと思うくらい、下手な笑い方で。
「デュースの方が先なんて、珍しいな」